Wiz:イスラエル軍の戦友4人がMicrosoftを飛び出し、5年で320億ドル規模のクラウドセキュリティ・ユニコーンへ、そしてGoogleによる買収
創業:Assaf Rappaport(CEO)、Ami Luttwak(CTO)、Roy Reznik(VP of Engineering)、Yinon Costica(VP of Product)——イスラエル軍時代の戦友4人組。かつてAdallomを共同創業し、揃ってMicrosoftに入社した経歴を持つ。 · Wiz, Inc.(イスラエル・米国拠点のクラウドセキュリティ企業、2026年3月よりGoogle Cloud傘下)
主要項目
FIELD STAMPS創業のきっかけ
Rappaportは2001年に入隊し、イスラエル国防軍の精鋭プログラム「Talpiot」および特殊技術部隊「Unit 81」を経て、イスラエル版NSAと呼ばれる「Unit 8200」の大尉まで昇進した。軍でRoy Reznik、Ami Luttwak、Yinon Costicaと出会い、生涯の起業パートナーとなった。2012年に初めて共同でAdallomを創業し、SaaSデータセキュリティに注力。3年後にMicrosoftへ約3.2億ドルで売却した。Microsoftでの5年間、Azureのセキュリティスタック構築に従事する中で、Adallom時代にはなかった「規律」を学んだ。顧客の要望をすべて受け入れることは巨大な技術的負債を生むことを痛感し、Microsoft時代にはAdallomから引き継いだ機能の75%を削ることで拡張性を確保した。2020年1月、4人はMicrosoftを退社し、AWS、Azure、GCPといったマルチクラウドをサポートする「スイス」のような中立的なセキュリティスキャンプラットフォームの構築を決意。これはAdallomでもMicrosoft内部でも実現できなかった製品だった。
成長のマイルストーン
転換点
- Beyond Networksの方向性が狭すぎると判断し、CISOインタビューを経てネットワーク層からマルチクラウドリスクスキャンへ転換し、Wizへ改名したこと——創業史上最も重要な決断。
- Microsoftでの5年間で、Adallom時代の「要望をすべて受け入れる」姿勢を「拡張性を犠牲にしない」規律へ変えたことが、WizのARR 1億ドル突破の基盤となった。
- RappaportがPichaiのメールを数ヶ月見落としたことが、結果的に230億ドル、次いで320億ドルという高額オファーを引き出すきっかけとなった——「会議に出ない、返信しない」ことが幸運の象徴となった。
- 2024年7月にGoogleの230億ドルのオファーを拒否しIPOを堅持したことで、9ヶ月後に320億ドルの全額現金(分手数料付き)という高値での売却を実現した。
- パンデミック発生時にフルリモートで始動したことで、オンプレミスからクラウドへ移行するCISOのニーズを的確に捉えられた。
失敗とつまずき
- Beyond Networksの初期設定が狭すぎ、創業2ヶ月目で自己否定と方向転換、社名変更を余儀なくされたこと。
- 2024年5月、Laceworkの買収交渉がデューデリジェンスを経て破談。高速なM&A戦略における初の失敗。
- 創業当初、RappaportがMicrosoftを辞めたことを後悔し続け、チームメンバーの家族からも反対され、会社が軌道に乗る前に解散の危機があったこと。
- 3年でCMOが3回交代。Okta出身のベテランCMOも9ヶ月で退任するなど、超高速成長に伴う組織の歪み。
- Sundar Pichaiからの買収打診メールを数ヶ月見落とし、第三者の指摘がなければ交渉の窓口を逃すところだったこと。
关键成功要素
- 軍の戦友4人が3回にわたり長期共働(Unit 8200→Adallom→Microsoft→Wiz)。チームの絆と共同作業の経験が個人の経歴以上に勝敗を分けた。
- エージェントレスのマルチクラウドスキャン技術:エージェントなしでAWS、Azure、GCP、OCI、K8sのリスクを可視化し、Fortune 100のトップ顧客を獲得。
- 研究こそがマーケティング:ChaosDB、OMIGOD、BingBang、DeepSeek等の脆弱性を公表し、業界の議論を主導し顧客の信頼を勝ち取った。
- Microsoftで学んだ拡張性の規律:「エンジニアは製品担当の言いなりにならず、拡張できないものは作らない」。
- マルチクラウドの「スイス」的立ち位置:AWS、Azure、GCP、OCIを公平に扱い、特定のクラウドベンダーへの依存を回避。
- 初日からFortune 100のトップ顧客を狙い、中小企業からではなく大企業から市場を切り開いた。
- 2024年7月に230億ドルのオファーを拒否する勇気。自社の成長ポテンシャルを信じ、短期的な利益よりも長期的な勢いを優先した。
教訓
- 2度目の起業における「拡張性の規律」は、1度目の「要望をすべて受け入れる」姿勢よりもはるかに価値がある。Adallomの機能を75%削った経験がWizの成功の遺伝子となった。
- CEOのメールや会議を逃すことは必ずしも顧客を失うことではなく、より高額なオファーへの「余白」になる可能性がある。Rappaport自身も「最大のチャンスは会議をすっぽかした時に始まる」と語る。
- ビジネスの基礎が加速しているなら、史上最大の買収オファーを拒否することで、より高い評価額を引き出せる(9ヶ月で230億ドルから320億ドルへ)。
- 「研究こそがマーケティング」はクラウドセキュリティにおいて最も安価かつ強力な参入障壁。資金をかけずに業界の重要プレイヤーになれるが、トップレベルの研究能力が不可欠。
- チームの絆と長期的な共働年数は、個人の経歴よりも重要。Unit 8200出身のパートナーシップこそが、Wizが5年で300億ドル規模に成長した最大の要因。
- パンデミックの追い風はすべての企業が受けられるわけではない。初日からフルリモート、グローバル対応という製品形態が、この環境で加速できる遺伝子を自ら選別した。
主要データ
- 2022年8月時点の年間経常収益:1億ドル(ソフトウェア企業として史上最速の18ヶ月で達成)(会社公表値、2026年時点、第三者監査未実施)
- 2023年時点の年間経常収益:3.5億ドル(会社公表値、2026年時点、第三者監査未実施)
- 2024年時点の年間経常収益:約5億ドル(会社公表値、2026年時点、第三者監査未実施)
- Fortune 100企業の顧客割合:45%(会社公表値、2026年時点、第三者監査未実施)
- イスラエルテック買収史上:イスラエル発スタートアップの買収として過去最大(会社公表値、2026年時点、第三者監査未実施)
- 評価額の推移:2021年10月 60億ドル → 2023年2月 100億ドル → 2024年5月 120億ドル → 2025年3月 Googleにより320億ドルで買収(会社公表値、2026年時点、第三者監査未実施)
- 2025年時点の従業員数:約2000人(会社公表値、2026年時点、第三者監査未実施)
- 買収対価:320億ドルの全額現金、および35億ドルの逆分手数料(会社公表値、2026年時点、第三者監査未実施)
- 累計調達額:約19億ドル(会社公表値、2026年時点、第三者監査未実施)
競合・同業
Wizのクラウドセキュリティ分野における競合は、CrowdStrike、Palo Alto Networks(Prisma Cloud)、Orca Security、Lacework(Fortraに売却)、Check Point、Zscalerなど。特にOrca SecurityとLaceworkはエージェントレスのクラウドセキュリティスキャンを行う直接的な競合。Palo Alto NetworksはPrisma Cloudのポートフォリオと脅威インテリジェンスでプラットフォームとしての優位性を持つ。Google Cloud統合後、WizはAWSやAzureの顧客に対しても中立的なサービスを継続する一方、Google CloudがAWSやAzureのセキュリティエコシステムに対抗するための切り札となった。これは強力な参入障壁であると同時に、利益相反のリスクも孕んでいる。
- https://en.wikipedia.org/wiki/Wiz_(company)
- https://en.wikipedia.org/wiki/Assaf_Rappaport
- https://fortune.com/article/wiz-cloud-security-ceo-assaf-rappaport-google-sundar-pichai/
- https://www.indexventures.com/perspectives/cloud-captains-how-assaf-rappaport-and-his-extraordinary-co-founders-built-the-worlds-fastest-growing-company/
- https://www.forbes.com/sites/alexkonrad/2023/08/08/nobody-beats-wiz-meet-the-aggressive-10-billion-startup-shaking-up-cloud-security/